(続き)
そして今日、今の店長副店長に辞める話をしてきた
バイトに行く途中、送ってくれた父親の車の中で前の副店長のLINEを開いた。先に報告しようと思った。でも何から始めるべきか分からなくて打ちかけた文字を何度もバックスペースキーで消した。結局LINEは打てなかった
代わりにイヤホンをして中島みゆきの曲を流した。
・空と君のあいだに
・ファイト
・泣いてもいいんだよ
を再生した。どれも歌詞が刺さりすぎて痛かった。涙が零れた。でも、ルームミラーの父親に気付かれたくなくて、必死で涙を抑えてた
バイト中、店長副店長を見る度に何度も泣きそうになった
しかも、今日に限って副店長は差し入れをくれた
無糖の炭酸水。はじける炭酸が皮の剥けた上唇に刺さって痛かった。もちろん味はしない
休憩に入れたのは2時を過ぎてから。バイト始めてから実に5時間が経過していた
そろそろLINEを打とう
前の副店長のLINEを開いた。そして辞めることになった報告文を打つ。合わせて、まだもう少し待ってまたもう一度前の副店長と一緒に働きたかったこと、でもそれは自分の心身を傷付け続けることになるから叶わないこと、それでも一緒に働いたことはかけがえのない思い出であることなど、感謝の文と一緒に綴って送った
書けば書くほど涙が止まらなかった
打ちながら食べていた辛子高菜のおにぎりは辛味がはっきり感じられてとても辛かった
バイト上がる2~3分前
後ろで中川さんと副店長の話し声が聞こえた
聞かなきゃ良かったのに聞いてしまった私はその内容に涙が止まらなくなった
それは、昨日のあの事件の話だった
脳裏に焼き付いた当時の様子が浮かび上がる
ニヤッと笑った中川さんと伊藤さんの顔
そして聞こえてくる伊藤さんの声
私は戸棚よりも少し奥にあるトイレのドアにもたれかかって泣いた
こんなところで泣けばすぐ近くにいるパートの女性の方々に心配される
蹲って泣きたい気持ちを堪えて私はお茶を飲んだ
隣の鏡に目が真っ赤になった自分の顔が映る
こんなんで戻れば誰でも心配する
上を見上げた私を副店長は遠くから呼んだ
「5分だけ時間ちょうだい」
トイレの前からガッツリ鼻声で返事をした
「はい!」
仕事を切り上げて副店長のところへ行く
泣き腫らした目は隠せず副店長に心配されながら話を聞いた
午前と午後では仕事内容が違うので、午前か午後にシフトを統一しようという話だった
「流星さんも大事な人力だし、必要な従業員だからさ、それを生かすにはこうしたらいいんじゃないかなと思って。どっちにするかはその日の人の数を見て決めるからさ。でも、業務内容が簡単な昼の方になるべく配置するね」
この空気感で9月末に辞めるなんて言い出しにくい
余計優しさが染みて涙が止まらなかった
「どうした?大丈夫?」
でも決めてきたことだ。もう前の副店長にもその旨を伝えてしまっている。ここで言わなかったら私はまだズルズル引きずってしまう
友達も親もスパッと切る決心をさせてくれたのだから
私は嗚咽の漏れそうな口を開いた
「すみません、あとで店長にシフト出す時に一緒に言おうと思ってたんですが…」
「うん」
「…9月末でアルバイトを辞めさせていただこうかなと」
「え、なんで?」
本当は伊藤さんのせいだって言いたい。でも、言い出しにくかった。だから少し微笑んで誤魔化して
「色々理由はあるんですが、実習も始まって忙しくなるので」
と考えてきた理由を伝えた
「でも忙しいなら無理して入らなくていいんだよ?」
絶対そう言われると思った。辛い。どうしてみんな優しいのに1人のためにこんな思いをしなきゃいけないんだろう
溢れる涙を拭って首を横に振る
「すみません…専念したいので」
副店長は少し笑って
「分かった」
と言ってくれた。その笑顔が辛かった
店長にも伝えた
店長はしばらく黙って「…そっか」と言った
本当は辞めたくない
あと8ヶ月でいいから残りたかった
でもそこまで引きずれるほどあの人への忍耐力ももう無い
近くで聞いてくれていた副店長は去り際に
「俺が泣かせたみたいになるからしばらく裏で涙乾かしてから帰るんだよ」
って言った
その言葉通り、裏に出て気持ちを落ち着かせた
でも次々喫煙をしに従業員が来るからすぐに出ざるを得なかった
代わりに更衣室で声を上げて泣いた
近くで人が寝ているのは分かっていても抑えきれなかった
荒い呼吸を上げ嗚咽を漏らしながら窓の冊子に手を付いて泣いた。昨日よりも泣いた
その時、携帯が鳴った
着信は前の副店長だった
「着替え終わったら、おいで」
私は急いで着替えた