兄に会いたい。
流産で亡くなった兄に会いたい。
成人式も20歳の誕生日も、1番に思ったのは亡くなった4歳上の兄のこと。
お兄ちゃん、私あなたの身代わりになって20年も経ったよって。
あともう少しで地球を出て、あなたのいる月の都に必ず帰るから待っていてって。
やっと見つけたの。月の都の場所を。私が絶対に帰らなきゃいけない場所を。
絶対に必ずあなたの元へ帰るから、もう少しだけ待っていて欲しい。
兄のためなら、私はどこまでだって頑張ってみせる。
兄に会えるなら、この地球を見捨ててでも必ず帰ってみせる。
私が今生きているのは、あなたが見られなかった景色をあなたに見せるため。
生きていると、何としてでも2人目が欲しかっただけのあの親の元を奇跡的に避けたあなたが羨ましくなるの。
あなたが生きていれば今頃私はこんな思いしなくてよかったのにって思うこともあった。
でも言い換えれば、私が身代わりになることであなたの幸せを守ることが出来たことにもなるわけで。
それから私はあなたを羨むのを辞めた。逆にあなたの幸せのため、って考えるようになった。
だからあなたには幸せに生きていて欲しいの。あなたが被るはずだった不幸は全て私が被るから。
だってあなたの身代わりになることが私にとっての生きる理由だから。これが無くなったら途端に私は生きる意味を失ってしまう。
この前、母親から聞かれたの。
何か不満に思うことはない?って。
姉貴との格差については話したけど案の定まともに取り合って貰えなかった。
その時に言ったの。「もし、兄が生きてたらって思う時がある」って。
そしたら「あの子はここにご縁が無かっただけ。そんなこと思う必要は無い」って言うの。
まるであなたのことを忘れるように言われているみたいで少しだけイラッとしてしまった。
私の生きる理由はあなたの身代わりになることなのに。
それにあの人は分かってない。というかみんな分かってないように思うの。
忘れるということがいかに残酷な行為かということを。
人や神、文化は忘れ去られたら終わりよ。そこでようやく死ぬの。
たとえ息の根が止まったとしても、誰かの記憶にあり続ける限りそれはまだ生きているの。
でも忘れたら終わり。そこでようやくそれは死ぬ。
母親は何を言うか、あなたがここにご縁がなかったとか言うけれど、腹に宿った限りあなたは確かにここにご縁があったのよ。でも何があったのか生まれてこなかっただけ。
私はご縁があった身代わりで生きてる家族を記憶の中で殺すようなことは絶対しない。だって身代わりで生きてるんだから。
母親や父親、姉貴が忘れても、私だけはあなたを絶対に忘れたりしない。忘れてなんかあげない。
忘れることは、すなわち記憶の中であなたを殺すこと。
だから私だけはずっと忘れないよ。
この話もう何度目かで聞き飽きたよね。
でもあなたを思う度に、考えざるを得ないの。
ようやく私も、両親が理想とした彼女と同じくらいの年齢になったよ。
もうそろそろ彼女と同じように、月の都から天女が私を迎えに来るはずよ。
絶対に必ずあなたの元に、月の都に帰るから。
もう少しだけ待っていてね。
愛してるよ、大好きだよ、お兄ちゃん。