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♡ショートストーリー♡
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【1円の世界】
この世界は、何もかもが1円だった。
野菜も、肉も、果物も生活必需品も何もかもが1円だった。
要は物々交換のようなものだ。
お金はあるようでないようなもの。
そんな世界に住む美雪は、18歳で一人暮らしを始めた。
実家を出ていく時、100円もらった。
最後の言葉を告げた。
「今までありがとうございました!」
さぁ、これから料理も掃除もがんばって彼を見つけて幸せになるんだ!
一人暮らしが慣れてきたある日、いつもは通らない道にあった店にぎょっとした。
「この男、顔はいいが仕事はできない。」
看板の下には10代の男の子が目をきらきらさせながらこちらをみていた。
首にはくさりが巻かれている。
「欲しいな。家事は教えればできるようになるでしょう。すみません、表の男性、買います。」
レジのおばあさんは不思議そうに美雪を見て、「本当にいいのかい?」と言った。
「はい、ぜひ来て欲しいんです。」
「まいどあり。」
おばあさんがくさりをはずす。
首にはネームプレートがあった。
「北岡湊(みなと)、A型」
「みなとくん、とりあえず服買おうね。」
「ありがとう。」
澄んだ声でみなとは言った。
美雪はハッとした。愛はお金では買えないと言いながら自分はそうしたのかもしれないと。
「これが似合うかな〜こっちもいいな〜。」
みなとは相変わらずキラキラした目でこちらを見ていた。
ひととおり買い物をすませると、
「なんか食べよう!何が好き?」と、みなとに聞いてみた。
「お茶漬け…。」
(今までちゃんとした食事たべさせてもらえなかったんだわ。)
「パスタ食べよう!美味しいところ知ってるの。」
店に着くと、みなとが嬉しそうにしている。
「お腹空いた…。」
「何がいい?これもオススメだし、これも美味しいわよ。」
食べ終わると、みなとが「はやく帰りたい。」と言う。
「お会計2円です、ありがとうございました〜。」
アパートに帰ってくると、バタッとソファに倒れ込む彼は、ひどく疲れていてボロボロだった。
「お風呂どうぞ?温まるわよ。」
と、バスタオルを渡した。
「着替えはソファに置いておくわね。」
パジャマを用意すると、美雪は明日みなとに色々と聞いてみよう、と思った。
みなとは、自分は1年前に捨てられたのだと言う。親とは連絡がつかないそうだ。
「ひでーんだよ。ある日いきなりさ、あの店に売られたんだ。」
「そうなの…。」ひざ枕をしてあげながら頭をなでる。
「美雪さんはなんで俺を買ってくれたの?」
「なんていうか…買わなきゃいけない気がして。」
「へぇ…珍しい人だなぁ。」
みなとが起き上がって美雪の頬にキスをした。
「俺は美雪さんに救われたんだ。恩返しがしたい。」
「ん〜じゃあ、お風呂掃除だけお願いしていい?やり方、教えるから。」
「おやすい御用です。」
美雪は、頼もしい同居人ができて嬉しかった。
「来週ふとんが来るから悪いんだけどそれまでソファで寝てくれる?」
「えー美雪さんと同じベッドで寝たいなぁ?」
「えぇっまぁ…いいけど。」
よく見ると、みなとは美しい顔立ちだった。ドキドキしてしまう。
「これから、よろしくね。」
みなとは、にこっと笑った。
「ねぇ、チャーハンてどうやって作るの?」
夕飯の準備をしていると、みなとに話しかけられた。
美雪はちょっと困った顔をして、
「作りながらじゃないと教えにくいなぁ。」と言った。
「じゃあ、明日の昼ごはんはチャーハンがいい!」
みなとが無邪気に笑う。
「いいわよ、じゃあ午前中に買い物に行きましょう。」
今夜はカレーだ。みなとのリクエストで。
最近はすっかり、みなとのペースに巻き込まれている。
オムライスが食べたい、酢豚が食べたい、肉じゃがが食べたい、それらをとおるが作れるようになれば、素晴らしい戦力だ。
「料理がんばって覚えてね。」
「うん!!!」
年下かと思っていたのだが、同い年だと判明してびっくりした。
「うそでしょ?!」
「うそじゃないよ、ほら。」
この世界の身分証明書を見せた。
「ほんとだ………!」
「僕のこと、年下だと思ってたでしょ。」
見透かされてたじろいだ。
「えぇ、子犬みたいだったから。」
ぷはっとみなとが笑った。
「何犬?トイプードル?チワワ?柴犬?」
しっぽを振ってごはん下さい的な反応。
「そういうところ!」
ふたりは笑った。
「ん〜ヨークシャーテリアかな!」
「へぇ…見たことないな。」
「可愛いわよ。ほら。」
スマホの画面を見せた。「これが僕みたいなの?」みなとは少し以外そうな顔をした。
次の日、買い物に連れていくとキョロキョロと何かを探している。
「なに探してるの?」
「温泉卵。」
「好きなの?」
「大好き!お願い買って〜。」
駄々をこね始めた。しょうがない、高いものじゃないしいいか。
「たぶんあっちにあるわ。はぐれないように一緒に行こう。」
「子供扱いするなよー。」
「大人には見えないわ。無職だし。」
「専業主夫だよ今は。」
「はいはい、そうね〜。あ、卵買わなきゃ。」
「卵ってこんな種類あるんだ。どれ買うの?」
「こだわりはないのよ。好きなの選んで。あとは、明日の朝ごはん何がいいかなぁ。」
「食パンにピーナッツバターでいいよ僕は。」
「じゃあ、そうしましょう。」
お会計をすませ、荷物は とおるが持ってくれる。
「暑いわね〜。あの喫茶店に入りましょうか。」
美雪は、アイスコーヒーを頼み、みなとはクリームソーダを頼んだ。
「うんまっ!昔から好き、クリームソーダ!」
美味しそうに飲んでいる。
美雪は扇子を取りだし、パタパタとあおぐ。
ちらりと見える黒いレースのキャミソールがエロい。みなとはドキッとしてしまった。
考えてみれば不思議な話だ、2LDKにふたりで住んでいて、男と女で何も無いなんて。
とおるは、女性不信なところがあるのだ。外見ばかり気にして中身を見てくれない女たち。
もっとも、みなとに中身が自信があるのかと言われるとこれといってない。ないからこそ料理や掃除ができるようになりたかった。拾ってくれた美雪の役に立ちたかった。
(がんばるぞ、チャーハン!)
美雪に言われるまま、卵を割り具材を用意していざ、やってみる。
なんとか出来上がった。味は?
「うん、美味しい!分量、忘れないようにノートに書いておいたら?」
「そっかぁぁぁメモしておけばいいのか!」
みなとは急いでノートにレシピを書いた。
「来週の土曜日もチャーハン作っていい?」
「いいわよ。美味しく作ってね。」
みなとは風呂掃除ができるようになった。
ちなみにチャーハンは、この間つくったら
「ん〜60点!ちょっと味が濃いかな。」と言われてしまった。
色々、作ってみたい。美雪の為に。
「明日さ、オムライスにしようよ!」
「いいけど…難しいよ?できるかな。」
「やってみせる!」
オムレツみたいにすると難易度が高いから薄焼き卵にした。
「うん、美味しい。」
美雪がもぐもぐと食べていると、みなとが「僕、働かなきゃだめだよね。いつまでも専業主夫じゃ、みゆちゃんに迷惑かかるよね?」みなとは、美雪のことを「みゆちゃん」と呼んでいる。
「別に気にしなくていいわよ、私は家事が苦手だから助かるし。」
美雪は週4日スーパーのレジ係をしている。それでじゅうぶん暮らしていけるのだ。
「じゃあ、主夫がんばる!」
「うん、よろしくね。」
そして、今日さりげなく婚姻届を出して夫婦になった。何も問題はなかった。
「今日駅前のパン屋さんで見つけたコレ見てよバケットのフレンチトースト!」
「わぁ美味しそう!ナイス!」
いえーい!とハイタッチをして終わるはずだった。はずだったのだが、みなとが美雪の手をぐいっと引っ張ってキスをした。
突然のことで頭が真っ白になった。
「みなと…?」
キスの嵐だ。嫌じゃなかった。オムライスの味がした。そのまま美雪のベッドに行き激しく求めあった。
今まで我慢してきた分、というくらい。
身体の相性が良すぎた。毎晩のように求め合った。
ある日、異変に気づいた。腕がかゆい。虫刺されではない。足もかゆい。月のものがこない。
まさか………妊娠検査薬を使うと納得だった。
その晩、みなとに「妊娠したの。」と打ち明けた。
みなとは喜んだ。と同時に金銭面で不安になった。妊婦を働かせるわけにはいかない。みなとは職探しを始めた。
「僕にできること………。」
ハウスクリーニングの求人が目に止まった。これだ!みなとは次の日に電話をして面接に合格した。
「僕がんばるから、みゆちゃんはしばらくゆっくりしてて。」
「ありがとう!」
そして、ついに産まれた。みなともそばに居た。3225gの男の子だった、名前はふたりで考えて決めた。健太と。
バタバタした生活が始まった。
3時間おきの授乳、オムツ替え、沐浴(もくよく)。みなとは少し寝不足だったが、家族の為!と仕事をがんばった。
健太が3歳になったころ、「女の子も欲しいな…。」と美雪がボソッと言った。
願いは叶った。健太が五歳のころ、美雪は女の子を出産した。名前は菜奈(なな)。
みなとはサブリーダーになり、お給料の心配はなくなった。
「みゆちゃんは働かなくていいよ。」
みなとは休みの日は、ごはんを作ってくれ掃除もしてくれて良い旦那になった。
そして、美雪はお気に入りの喫茶店を見つけ、たまに行くようになった。
「私すっごく幸せだよ!」
洗い物をしてくれていた、みなとを後ろからギュッと抱きしめた。
〜終わり〜